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  • 執筆者の写真地引 由美 Yumi JIBIKI

ミツコ - 誕生100周年記念発表会

更新日:2019年9月3日


 ゲランの名香『ミツコ』。誰もがその香りに何かしら思い出があるのでは無いでしょうか。1919年に発売されてから、日本においては平成から令和へと元号が改まった今年、丁度100周年を迎えます。それを記念した素晴らしい発表会が虎ノ門のアンダーズ東京で開催されました。  前日からインビテーションの上に、サロンに置いてある『ミツコ』のボトルを並べておきました。オードゥトワレ、オードゥパルファン、パルファンの香りを改めて比べてみて、こんな特別な機会にはやはりパルファンをつけていかなくては、と。


 「ゲランのフレグランスは、クリエイティビティとクラフトマンシップの融合です。その究極のものを100周年を迎えた『ミツコ』にプレゼントするような気持ちで実現したく、本日皆様にご紹介させていただく素晴らしい作品が誕生しました」と、ゲラン株式会社 代表取締役社長の木村美也子 様のご挨拶で発表会は始まりました。マスターパフューマーのティエリー・ワッサー様(Thierry Wasser )と、マーケティングディレクターのアン=キャロリヌ・プラゾン様(Ann-Caroline Prazan)も来日され、『ミツコ』の香りの魅力を語ってくださいました。また『ミツコ』100歳の誕生日の贈りものとしての『究極』のボトルを実現された、書家の中塚翠涛(なかつか すいとう)様、株式会社箔一 代表取締役社長 浅野達也様も来場されていらっしゃいます。ウェルカムドリンクのルイナールのシャンパーニュを頂きながら、もうワクワクしてきます。


 アンダーズ東京52階のRooftop Barには3本流しの大きなテーブル。シックなカラーのテーブルクロスの上には、白いさざれ石と黒い炭。金色の竹をアクセントにして、『ミツコ』100周年記念ボトルのモチーフである紅白梅が飾られています。一つの木に紅と白の花が咲く、この世に存在しない、夢の世界の梅の木です。  ティエリー・ワッサー氏のお話が始まります。  「ジャン・ポール・ゲランの後に続き、2008年にゲランの5代目調香師となった私の仕事は、新しい香水を作るだけでなく、過去に発表された名香の香りを現在の皆様にお伝えするという大事な仕事もあります。」  「私の時間のうち、30%は世界中を駆け巡りゲランの香水の為に最高の香料原料を見つけ、仕入れを決めるのです。そして、私の時間のうち、20%は工場にいるのです。調香の現場を監督するのです。」  「この神話的な素晴らしい『ミツコ』のキャラクターを構成している香りについて少しお話ししましょう。まず、南イタリアのベルガモット。1853年に発売された『オーデコロン インペリアル』からずっと、ベルガモットはゲランというメゾンに決して欠かせない香りです。そしてもちろん、花の香りのしない香水はありませんから『ジャスミン』。南インド、フランス、イタリア、エジプトなど各産地のジャスミンの香料をブレンドして、香りの品質を常に安定させています。そして『ローズ』。ブルガリア産、トルコ産、南フランス産などを使い、香りをリッチにボリューム豊かにします。そして『ヴェチバー』。複雑な香りでミステリアスな側面をもつこの植物はハイチ産や南インド産を使います。」  「この信じられないような象徴的な昔の写真を見てください。写っているのは『ミツコ』を生み出したジャック・ゲラン。そしてその孫で私の前任のジャン=ポール・ゲラン。そして甥のマルセル。もちろん今の方が設備などはずっと近代的ですが、ネクタイを締めて白衣を着て、工場で行なっていることは今とあまり変わらないのです。そして、彼らだけが『ミツコ』を始めとする伝統的な、門外不出の調香のフォーミュラを見ることが出来たのです。」   「『ミツコ』は時間を超えて存在するのです。100年も前の香りが今も存在するなんて信じられますか。そのような香りを作れる人はどれだけいるでしょうか。香料原料のミックスだけではできません。ジャック・ゲランの天才と先見があったから出来たのです。当時、ハイテクだったピーチの香りを加えたから『ミツコ』が誕生したのです。」



 アン=キャロリヌ・プラゾン様はボトルのデザインについて語ってくださいました。 「ゲランというメゾンは1828年に創立され、現在まで1,100もの香水を生み出して来ました。ここでその全てを紹介することは出来ませんが、1853年にナポレオン3世の皇后ユジェニーに献上された『オーデコロン インペリアル』をご覧ください。ここからゲランの香水メゾンとしても歴史は始まったのです。1889年には、いわゆる『モダンフレグランス』つまり、合成香料を加え、重厚感と持続性、残り香を楽しんでいただける香水を発表していたのです。」 「『香りは記憶の中で、もっとも印象に残るものである』。人を一瞬惹きつけるだけでなく、ずっと記憶に残るのだと、ジャック・ゲランもジャン=ポール・ゲランも言っています。」

「人はそれぞれ、指紋のように一人一人違う、『嗅紋』といえば良いでしょうか、そんなその人特有の香りの感覚を持っています。」 「ジャック・ゲランはとりわけ、『シャリマー』『ルールブルー』『ミツコ』を愛していました。彼自身は日本を訪れる機会に恵まれませんでしたが、ジャポニスムの影響を受けていた画家のモネやドガなどとの交流を持ち、日本女性、ミツコ(光子とも、蜜子とも)が主人公の小説『ラ バタイユ』を知ります。」

「『ミツコ』が創られたのは1919年。第一次世界大戦の終了直後で、戦場に駆り出されてまだ戻って来ない男性の代わりに、女性達は仕事を始め、地位を獲得していったのです。女性の優しさ、女性のもつ輝き、また一方で、女性の力強さ、影。全ての女性がもつ二面性を表現し、またジャック・ゲランが愛してやまなかった妻、ルイーズに対するオマージュでもあったのです。」

「『ミツコ』のボトル選定は、ジャック自身が行いました。女性のなで肩をイメージしたカーブ。ハート型を逆さにしたキャップを愛の象徴として選びました。」

「私たちは『ミツコ』100周年を記念して、日本の伝統をボトルに体現したいと思いました。このボトルには24キャラット以上の金が使われ、240時間以上の作業が為されています。しかも、一つ一つ趣が異なります。限定数は3,000としました。」 「『"Être Guerlain, c'est être différent." ゲランである為には、常に他とは異なっていなければならない』。私たちはそんな思いで、常に世界中でほかには無い良いもの、美しいものを求めているのです。」

 『ミツコ - 誕生100周年記念ボトル』のメイキング映像を見た後は書家の中塚翠涛(なかつか すいとう)様のお話です。来年のNHK大河ドラマの題字を担当され、パリのルーブル美術館でも作品を発表されているということで、

「今回のお話を頂いた時たいへん驚きはしたのですが、フランスが大好きでしたのでご縁があったのかなととても嬉しく思いました。」

「ご依頼を頂いてから提案した色々なデザインの中で、ホテル ムーリスに滞在中に生まれた梅のデザインに決まったのですが、後でわかって驚いたのは、ムーリスのあるリヴォリ通り228番地は、ゲランの最初のメゾンがあった場所だったのです。」

「梅は一本の木に赤と白の花は咲かないと思うのですが『ミツコ』が唯一無二の存在であることを表現する為に1本の幹に咲かせ、また、日本の一年で最初に香りを届けてくれる花を咲かせるのは梅ということで選びました。」  中塚様がパリで、まさにゲランの創業の地に滞在している時に、この梅の図案が生まれたなんて、素晴らしい偶然!

 そして、株式会社箔一 代表取締役社長 浅野達也様のお話です。 「我々は金箔にまつわる色々なことを行なっているのですが、最初にゲラン様からお話を頂いた時に、非常に驚きました。ただ、同じものづくりにこだわる会社同士として、負けないように作ろうと。ヨーロッパでできた香水、私たち日本人にとって素晴らしいデザインのボトルとなるように、取り組ませて頂きました。」 「このプロジェクトは数年がかりで行なってきまして、最初はボトルの形も大きさも全く違うものだったのです。その度ごとに、箔の貼り方や種類も変えました。また、中身が見えるようにという依頼があったので『散らし』という技法を使いました。これは金箔をパウダースノーのように一度細かく切り、それが空から大地に降るような加工の仕方です。ですから、ふわっと、偶然の形が生まれ、全てのボトルは微妙に異なる仕上がりです。また、一度金箔がガラスの上に付いてしまうと、もう剥がすことはできません。ですからたいへん気を使いながらかつ金箔の美しさが映えるように、また、香水が美しく見えるように、3,000本の加工をさせて頂きました。」  ボトルの仕上がりを、金箔がふわりと落ちていく偶然にも任せてみる。もちろん計算されているのでしょうけれど、金箔の心(?あるような気がします笑)の赴くままに遊ばせているようで、職人の方と金箔との素敵な関係性を感じます。



 ボトルに手を触れるととても滑らかで、不思議な柔らかさを感じます。そしてやはり香水好きにとってはガラスを透かして液体が見えるのが嬉しいです。散らされた金箔が成す模様が一つとして同じものが無いのが、『ミツコ』の香りの思い出が人によって違い、一つとして同じものが無いことと共通しているようで、このボトルを手にすると、私だけの『ミツコ』の香りと対峙できるようで、本当に素晴らしいと思います。

 『ミツコ』オーデパルファン 75ml 100周年記念エディションは、今年の秋、11月15日(金)数量限定全国発売(一部店舗除く)です。価格は92,500円(本体価格)。私も早めに予約したいと思います。



 この発表会の為に用意されたアンダーズ東京特製の、ジャスミンのミニエクレアと、ベルガモットのショコラも頂きました。スイーツにも箔一の金箔が散りばめられています。



 会場の後方にはゲランのアーカイブに保存されている『ミツコ』の100年に渡る貴重なビジュアルが展示されています。


 発表会の後、ティエリー・ワッサー様とお話しさせて頂きました。ラコゼのことを説明して、 「香水をつけることで、もっと素敵な自分になりたいと思う人がたくさんいます。ゲランの香水を纏い、ほかには、何を身につければ良いでしょう。エレガンス?または素敵な趣味を持つなど?」

とお聞きしてみました。と、

「ふむ、香水はなんの為につけるの?エレガントになる為につけるの?」と質問で返されて少しドキドキ(笑)。 「僕は13歳の時、」とお話が始まりました。「周りの皆にヒゲが生え始めたんだ。でも僕は一人だけ、ベビーフェイスで。悩んでた。ある時、母の友人からとても良い香りがしたんだ。それはゲランの『アビ ルージュ』という香水だった。母は僕にそれをつけてみるように勧めてくれたんだ。それで、僕は胸元にスプレーしてみた。」

「そうしたらね、元気になった。周りを気にしなくなった。」 「香水をつけることで、自分をきちんと認めること(=s'estimer)が出来たんだ。」

「そして、香水をつけるという行為自体が、自分の物事に対する向き合い方=アティチュード(=attitude)を決めている。だから、香水をつければそれで良い。香水をつけるというアティチュードが大事なんだ。」

 もう一つ。ロシアバレエのディレクターのセルゲイ・ディアギレフや銀幕の喜劇王、チャーリー・チャップリンも『ミツコ』を愛用していたことについて。日本では『ミツコ』は女性の香水、というイメージが強いですが、どうでしょう?

「ジェンダーによる香りの好みの差は、実はそれほど無いのです。その人にとって魅力的な香りであれば、自然とつけたくなるものだから。」

 短い時間でしたが、会話を通して

「好きな香りや、誰かから勧められた香りを、纏ってみる。まずそこから新しい何かが始まるよ。」

 と言われたようでした。

 下の画像は2014年、ヴェルサイユのISIPCAで開催されたモーリス・ルーセル氏の講座後の様子。香りについて談義しているティエリー・ワッサー氏のオーラが凄すぎて、声をかけられず、そっとこの写真を撮るのが精一杯でした。  今日(しかも東京で!)お話しさせて頂いて、本当に嬉しかった。



 香水を愛する全ての人の為に、発表会の様子を少し長めに書いてみました。字数制限が無いのがブログの良いところですね。これから講座やイベントでお会いする皆様にも『ミツコ』100周年記念について、お伝えさせて頂きます。ご一緒に『ミツコ』の100歳のお誕生日をお祝いしましょう。

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