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  • 執筆者の写真地引 由美 Yumi JIBIKI

ミス ディオール ローズ エッセンス

『ミス ディオール ローズ エッセンス』 の香りを今、心から楽しんでいます。このディオールの新作香水はボックスのシールの部分に「ディオールの収穫 - グラース フランス - 2021」と記されているように、南フランスの香水の街グラースにあるドメーヌ ドゥ マノンのローズの2021年収穫分をすべてローズウォーターにし、それを香水にしたもの。

ワインがお好きな方ならば、ラベルに書かれた年号表記はワインの原料となる葡萄の収穫年で、それをヴィンテージと呼ぶことはご存知でしょう。同じようにこれはその年のヴィンテージの数量限定の香水です。


銀座三越で開催されていた(5月24日に終了)『ミス ディオール ローズ エッセンス ミス ディオールの故郷・グラースへの愛』会場へ向かうとスクリーンにドメーヌ ドゥ マノンのイメージ映像が流れていました(キャロルさんの画像がブレて美しくないので、後で再掲します)。5月、南仏でカンヌ映画祭も開催される今の時期は、グラースのセンティフォリア ローズが開花する収穫の大切な時期です。その日の朝に咲いた花は午前中に摘まないと香料の原料にはならなくなります。そして棘に囲まれた花を一輪ずつ手で摘むという大変な仕事です。摘み取る瞬間には click!というのかしら、小さな音がします。パフューマーの友人は「この音は『そう、私を摘み取って正解よっ』て、ローズがOui!って言っているのよ」と言います。摘む人も摘み取られる花も(大変だけど)きっととても幸せなはず。



さて『ミス ディオール ローズ エッセンス』はフレグランス製品の種別ではオードゥトワレです。私が香水の業界に入った時から教えられている香水の付け方に「パルファンは点で、オードゥ パルファンは面で、オードゥ トワレットは線で」ということがありますが、『ミス ディオール ローズ エッセンス』はスプレーのパーツが大きめなので、スプレーを長くゆっくりと押すことができます。ですから、手首から肘まで、とかウェストから鎖骨までなど、ストレスなく長い線を引くようにたっぷりとつけられます。この様にして香りを纏うとまるで上質な感触のバラ色のランジェリーを身に着けたような気分になります。 それでも賦香率が低めのオードゥトワレですから、スプレーした直後に立ち上る香気は早めに空気中に拡散していき、肌に密着する様に残る香りの持続は4時間程度でしょうか。それでも1日の終わりに服を脱いだ時にはおつかれさま、と言ってくれるように服に隠れていた肌からの香りが再び上がってきます。



今回のディオールの新作フレグランスは、センティフォリア ローズのローズウォーターの良さをその香りに存分に活かしています。水蒸気蒸留で取り出されたローズウォーターは溶剤抽出のコンクレートからのアブソリュートとはまた異なる、軽やかな香りの良さがあります。重く濃厚な香りでなく、軽やかな香りが好まれるのはコロナ禍以後の傾向です。また香水講座に参加された方にはお見せしましたが、環境面でも廃棄物の処理がよりシンプルなこともローズウォーターにスポットが当てられた理由の一つかと思います。 今の『ミス ディオール』に比較すると、グルマンなテイストは無く、香りはよりローズの生花の良さが強調されていて、ピュアでありながら洗練されている、いうイメージを抱かせる香りです。ゼラニウムのグリーンノートから、ローズの広がりとハニーのアクセントへ。ウッディノートとムスクノートはローズウォーターを『香水』へと昇華させています。

パフューマーはフランソワ・ドゥマシー。ディオールのメゾンパフューマー クリエイターがフランシス・クルジャンに交代することが発表されてからメディアではお姿を見かけませんが、これがディオールにおいてドゥマシーの署名で発表される最後の香水になるのかしら。もしこれから毎年ヴィンテージが発表されるのなら、その調香はグラースの地をよく知るドゥマシーさんに行なってほしいなぁと思うのです。何世代にも渡ってローズが育てられ続けてきたのだから、そのヴィンテージもアーティザナルな(職人的な)パフューマーの感覚に託したい。日本酒の杜氏の様なイメージです。



コロナ禍以前の香水は『旅』をテーマにすることがトレンドになっていましたが、土地や歴史、環境から生まれる『ヴィンテージ』というテーマがこれから他のブランドでも出てくるのか、見守りたいと思います。そんなことを話していたら『ヴィンテージ』は『ヘリテージ』がないと難しいんじゃない?と言う方もいますが、まぁそこも含めて。 家に戻り、センティフォリアではないけれどローズに囲まれた庭のテーブルで包みを開いてみました。会場でブラックのスーツを着たイベントスタッフの男性が「箱からも薔薇の香りがするんですよ!」と嬉しそうに教えてくれたのでそっと嗅いでみたらほのかに香りがする様なしないような?この箱の材料には、ローズウォーターを抽出した後の花びらをリサイクルしたセルロースを練り込んでいるそうです。軽量化されたフレグランスボトルにも(確かにガラスが薄い)環境に配慮してリサイクルガラスが25%使用されているそうです。 箱の中の小冊子(仏文と英文)は読んでみたら、公式サイトに書いてあることとほぼ同じでした。



キャロルさんのお写真はたくさんあるけれど、お父様の代から変わらず、世界中の人を受け入れてグラースの花について解説をしてくださっている姿を。

「ローズの花の香りは毎日違います。ある朝はシトラスノートが感じられる。また次の朝はハニーノートが感じられると言う様に」

それを聞いてグラース在住の友人のEさんが思わず

「え、それじゃ、毎日違う香りの香水ができちゃうのですか?」 と聞いたら、

「いえ、そうじゃなくて(笑)。その年に抽出された香料は全て纏められてその年産分とされて、つまりその年のヴィンテージね、香水の製造に使われるの」

と。今回、2021年のヴィンテージとして『ミス ディオール ローズ エッセンス』が発売されたきっかけの一つにはこの時の会話があるのでは?と想像をたくましくしたり。



ステキなコマーシャルの映像には映らない、雨の日のセンティフォリアローズと雨の日のキャロルさん。



環境に配慮して、かなり以前から除虫剤、除草剤は使用されていません。虫除けにはアロマオイルウォーターをスプレーし、伸びてくる草を抜くのは土がぬかるんで根から抜きやすくなる雨の日の主な仕事です。開花シーズン以外も毎日休まずに花に心を向け手をかけなければいけません。



ドメーヌの可愛い猫さんたちにもずっと会えていない。この白黒の猫さんはカリーヌ君だったかしら。甘えん坊さんです。 グラースに行かれたことのある方もない方も、ぜひ『ミス ディオール ローズ エッセンス』を肌にのせてみて、グラースの5月のローズの花の香りを感じてみてください。


 追記:全国発売は6月4日(金)だそうです。

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