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  • 執筆者の写真地引 由美 Yumi JIBIKI

ドレスコード "ホームレス" というパーティで

南仏に少し長く滞在していた頃、ドレスコードが "ホームレス" というパーティに連れて行ってもらったことがありました。パーティのホストはサルバドール・ダリの最後の弟子である、アメリカ人のアーティスト、ナル氏(Fred Nall Hollis)で、会場はヴァンスとサン ポール ド ヴァンスの間の谷にある敷地3ヘクタールに及ぶ彼の別荘。敷地内には若者のためのストゥディオもいくつか建てられていて、そこで制作に励む若いアーティストの姿も見られました。ナル氏がフランスで主に取り組んでいたエッチング、そしてモザイク、タペストリー、彫刻、磁器など、ジャンルを超えたさまざまな作品が家中に所狭しと並んでいました。ネイチャーアート&ライフリーグアート協会という財団を設立し、300回以上の個展を開催し、アメリカ、そしてフランス、イタリアなど世界中で作品を展示されてきました。

自由な精神を愛した彼ならではのドレスコードが "ホームレス" 。南仏を愛するリッチなゲスト達も皆、高価なアクセサリーやブリンブリン(笑)の腕時計やブランドのバッグなどを持たずに、ボロボロの姿で集まって来ます。でもこれがとても難しくて。ボロボロでもステキな人や、作り込みすぎてもはやアートの域に達している姿の人も。このドレスコード、とてもセンスが問われるんです。私はなんとなく古いTシャツと、その当時はほとんど履かなかったジーンズで行ったのですが、きっとアジア人のお手伝いさんには見えたけど "ホームレス"にはなれていなかった。ホームレスについて自分はどれほど知っているのか、彼ら彼女らについて考えるきっかけになったとともに、いざとなったらホームレスになっても生き延びられるのかという覚悟まで問われたような機会でした。


https://www.waka.com/2024/09/17/renowned-alabama-artist-fred-nall-hollis-dies-at-76/ そんなことを思い出して考えているのは、グラースの友人、Kitty Shpirerさんが、ナル氏の訃報を知らせてくださったから。謹んでご冥福をお祈りします。 そのパーティで笑顔でガーデンチェアに座っているカールした髪の美しい人がいるなぁ、と眺めていた人が彼女でした。しばらく後に、グラースで仲良くなった方に彼女は香水ブランドのオーナーですよ、と紹介して頂くことになるのです。 Kitty Shpirerさんは2009年にBissoumine というブランドをスタートさせ、素晴らしい香水を制作されてきました。 彼女のブランドの詳細はfragrantica のこちらに。旅した中東の建築や芸術にも影響を受けたナル氏の『サフラン ローズ』というエッチング作品とコラボレーションして『フルール ドゥ ナル』という香水を創作されました。繊細な感性を持つナル氏が認める香水が完成するまでのやり取りは、とてもは大変だったそうです。


クラシックな香水の魅力を持ちつつ、エキゾティックで、まるで夢の中の花の香りのようなこの『フルール ドゥ ナル』。私は大好きです。Kittyさんは少し体調を崩していた時期もありましたが、最近また香りのプロデュースなどの活動を精力的に再開されています。次回グラースに出かけた際にお会いするのがとても楽しみです。別れをきっかけに出会いを思い出す、秋はそんな季節かもしれません。




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