2024年10月22日(火)にローンチするパルファン サトリの新作香水『侘助 WABISUKE』(※10月16日(水)に伊勢丹先行発売)について、光栄にも調香師の大沢さとりさんから直接ご紹介いただく機会を得ました。有り難うございます。普段からご尊敬申し上げる中野香織さんもご一緒で嬉しさは倍に。赤坂プリンスクラシックハウス ラ メゾン キオイにて。
香水のタイトルの『侘助』とは、小ぶりで一重咲きの可憐な椿の花です。この香りで描き出される世界観は、2月4日の立春の頃、一年のうちで最も寒い時期の午前4〜5時にかけて席入りし、茶室という空間でひと時を共にして夜明けと共に出立するという、等別な茶事である『暁(あかつき)の茶事』の情景。移り変わる光や音の様子を細やかに香りで織り成し、侘び寂びの世界を描き出した香水が『侘助』です。 パルファン サトリから2009年に発売された『ヒョウゲ(旧 織部)』は、私たち日本人の思う緑茶の香りを鮮やかに表現し、いわゆる 西洋発の "グリーンティ" の香水の定義に一石を投じたエポックメイキングな香水でした。当時「日本のお茶の美しさを描いた香水の名前が、なぜ利休でなく、織部なのですか」と問われることも多かったそうですが、大沢さとりさんは「当時は千家茶道の祖、千利休の侘びて厳しい印象を香水にすることははなはだ難しく感じていました。」とのこと。15年経った今年、少し力を抜いて、自分なりの侘びを新作の香りとして発表されるそうです。
『侘助 WABISUKE』のノートはシプレフローラル。
トップノート:インドヨモギ(ダバナoil)、藿香草(パチュリ)oil ミドルノート:薔薇(そうび)、紫丁香花(ムラサキハシドイ=ライラック)、ドイツカミツレ(カモミールブルーess.) ラストノート:龍涎香(アンバー)、龍脳、墨、香木
トップノートにシトラス系の香料名が見当たらないのが、一般的な西洋メソッドの香りのピラミッドとは明らかに異なります。トップノートのダバナの香り方は他の香水で感じる重くねっとりとした印象はなく、まろやか、かつ、キリリとした折り目正しさがあります。そして夜明け前の夜の闇の暗さ濃さを感じます。ミドルノートのライラックはパウダリーというよりも、夜明け前のいちばん冷たい空気が朝日の煌めきを浴びながらすっきりとした透明感をもち、甘やかな龍涎香(アンバー)や墨の香りは実はつけた時のトップノートの奥からもすでに微かに感じられ、夜明けとともに徐々に強まっていく感じです。最後に肌に残るのは、香木の持つ澱みのないクリアな清らかさ。
前作の『ノビヤカ - NOBIYAKA』は、コロナ禍後の価値観が大きく変化してしまった世界で、新しい自分らしさをアップデートするための解放感を応援してくれるような香りでした。今回の『侘助 - WABISUKE』では一人で立ち、自分の信じる厳しい道を進む気持ちに寄り添うような、心の中の小さな炎が赤い侘助の花に象徴されているような。 ペアリングするならお茶と関連するイメージで、『ワサンボン - WASANBON』や『HYOUGE - ヒョウゲ』はもちろんのこと、日中は『ノビヤカ - NOBIYAKA』を纏い、夜一人になったときに侘助 - WABISUKE』というのが、私の生活サイクルにはよくマッチしました。
すでにおシャレ感いっぱいの『ミズナラ - MIZUNARA』を愛用されている男性にも、絶対に似合うのが『侘助 - WABISUKE』ですね。ぜひ試していただきたいです。
ところで『侘び』とはなんでしょう。和の作法に不調法な私には、捉えることが難しいことではありますが「わびとは…世間的な事物 - 富・力・名に頼っていないこと、しかし、その人の心中には、なにか、時代や地位を超えた、最奥の価値をもつものの存在を感じること - これが「わび」を本質的に組成するものである。」(株式会社野村美術HPより) 日本文化について考えさせられる香水。香水であるけれど、その香りの世界をよく知ろうと掘り下げれば、文学や歴史をも紐解くことになる。パルファン サトリの香水に触れるといつも、パフューマーは作家であり、研究者であり、愛をもって自分の信じるところを進む人である、との思いを新たにするのです。
難しく感じてしまいそうなこともありますが、『侘助 WABISUKE』の香りだけを嗅いだ時、初めて香水を纏う方にも、その心地よさは十分感じていただけると思うのです。10月16日から伊勢丹 新宿店で開催されるサロン ド パルファンで、ぜひ体験してみてくださいね。
Comments