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執筆者の写真地引 由美 Yumi JIBIKI

香りとクリエイターがイコールであるということ

更新日:2020年10月8日

 昨日の高田賢三氏ご逝去のニュース。コロナで亡くなられたとのこと。心からご冥福をお祈り致します。最後にお会いしたのはコート=ダジュール ニース空港でした。お一人でいらして、早足で近づいていらっしゃる姿は格好良すぎて、あの時に後ろ姿を見送ったまま。  ご自身の華やかな成功。そしてその後の時代の変化に伴うブランドの譲渡では相当に辛い思いをされたのではないでしょうか。ブランドの勢いとか、経営陣の交代によるマーケティングの方針とか、香水を見ているとよくわかります。  « Le monde est beau » 世界は美しい。と言い続けた人。そして  « Ça sent beau »と自らの香水に誇りを持っていらしたのに、自らブランドの指揮を取れなくなった後は香水もその姿を変えてしまいます。幾重にも重ねられた花柄のスカートの重みを感じさせていた彫りの深いずっしりとした香水ボトルとパッケージは、するりとした軽い感覚の姿に変わってしまいます。  初期の香水瓶をここサロンには置いていないので、下の画像の二つはリニューアルした後のパルファン エテ、そしてケンゾー プール オムのフランカーの香水です。つるり、するりとした姿です。



 KENZOの香水をオススメするのはとても楽しいことでした。PARFUM D'ÉTÉ のストーリー。そして当時はまだ少なかった芍薬 - ピオニー - ピヴォワンヌ の花のニュアンスを生かした香りは日本の女性にとってとてもイメージの良いもので、年代を問わず多くの方に好まれました。優しさと品の良さ、適度な華やかさという点が芍薬の持つ魅力でしょう。結果的にセールスも良く一つの潮流になったのか、PARFUM D'ÉTÉ以降、他ブランドの香水のリリースにも「シャクヤク」の記載が増えたのです。  フレグランスカウンセリングをしている時、パリの一番気持ちの良い季節に咲く芍薬の花についてお客様とお話ししているだけでも、あっという間に時間が経ったことをよく覚えています。香りとストーリー、そしてボトルの佇まいなどに齟齬をきたしていない時、クライアントと接するカウンセラーは、まるでクリエイターに乗り移られた様にその香水について説明することが出来ます。その様な香水はこれまでにいくつあったかしら、と今、振り返っています。  偉大なる先達が天に登られたニュースを知った日に、現代を生きるデビューしたばかりの香水クリエイターにお会いしていました。彼と彼のブランドの香りのこれからがとてもたのしみです。

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